2013/09/25

ベルベル刺繍、タハルート / Berber-embroidery "Taharout"

過去のブログ記事にも書いていますが、私は現在青年海外協力隊員の村落開発普及員として、モロッコのグルミマという小さな町の郊外にあるベルベル人集落にて活動しています。活動の詳細は前回のブログ記事を見てほしいのですが、その中でも最近一番力を入れているのが、手工芸品や地元特産品の開発と販路の拡大を通した、女性たちの現金収入向上プロジェクトです。

私が活動している地域は、先住民のベルベル人が多く住んでおり、現地の人たちが話す言語も公用語のアラビア語ではなくて、ベルベル語です(※ベルベル語も名目ではモロッコの公用語として近年認められましたが、話せる人はモロッコの人口の少数です)

後からモロッコにやってきたアラブ人と、元々住んでいたベルベル人では、手工芸品にも違いが表れています。私の任地の例を挙げると、ここグルミマでは「タハルート」と呼ばれる、黒地の2mx1.5mくらいの大きさの生地に色とりどりの糸で刺繍をした伝統的なマントを女性たちはまとっています。外出する時は、頭から体を覆うようにまとう人もいれば、体全体や上半身のみまとう人もいます(時々、ロバの体に草木を乗せて運ぶために風呂敷のような使い方がされていたり、ドアを開けたままだと家の中が見えてしまうので隠すためのカーテンとして使われているも見たことがあるくらい、他にも用途が色々あるタハルートなようですが・・・笑)。
タハルートを身にまとた女性@グルミマ市内
私がグルミマで買ったタハルート。
通常サイズはダブルベッドを覆うくらい大きい。


興味深いのは、このタハルートは同じベルベル人コミュニティーでも、モロッコ国内では私が知る限り、グルミマや隣町のティンジダッド、そして近郊のエルフードやティネリール周辺地域のみで使われているという点です。マラケシュ近郊やアトラス山脈の標高の高いところにあるベルベル人コミュニティーに行った時は、女性たちはまた別の布をまとったりしていて、タハルートは目にしませんでした。

私は、まず商品開発をするにあたって、このタハルートに着目しました。これはモロッコ国内でもこの地域にしかないものだし、おまけに、全部手縫いのためにタハルートに刺繍された柄や色の配列も作る女性によって違うので、本当に1つ1つがオリジナル作品なのです。この辺の地域の女性は、結婚する時に嫁入り道具としてタハルートの作り方を知っておかなくてはならない、といったような話も聞いたことがあります。

私が活動している女性団体で、今このタハルートを活用した新商品を開発しているわけですが、開発するにあたって、まずは私もこのタハルートの作り方を知っておかなければと思い、女性たちにこのタハルートの作り方を教えてもらいました。
まだ練習段階の頃の私のタハルート(手前)

そして、自分でタハルートを作れるようになった段階で、タハルートを応用した商品の試作品を自ら作って、女性たちに見せました。それがこちら↓


これ、何だか分かりますか?

・・・正解は、タハルートを身にまとった女性のティーポットカバーとタハルート柄のティーポットコースターです。モロッコ人はこのようなポットでミントティーをたくさん飲むために、このような商品があれば、1)実用的、2)グルミマのベルベル文化のオリジナル性をアピールできる、と思ったのです。

これを見た女性たちは、「いいわね!」と言ってくれて、彼女たちと一緒にこの商品を作り、販売していくことになりました。まだ実は質に関しては改善すべき点がたくさんありますが、とりあえず今では女性たち自身でこの商品をほぼ全部作れるようになりました。

これ以外にも、タハルート模様の巾着袋を自ら作り、これも女性たちに見せて意見を求めました。女性たちもこれを気に入ってくれて、これも一緒に作って行くことなりました。その商品はこちら↓

これらの商品は、今後他の隊員や近郊の観光地でも販売できないか検討中です。

そして、自らもタハルートを1つ完成させてみようと思い、3ヶ月程前からゆっくりと製作し始めたタハルートがやっと完成しました! 

・・・・・じゃん!



タハルートは伝統的に黒地と決まっていて、この地域の女性たちは黒地以外のタハルートを身にまとうのは少し抵抗があるようですが、外国人観光客やもしかしたら他の地域からこの地域を訪れるモロッコ人も、黒以外の生地だったらもう少し手に取りやすくなるのではないかと思います。

例えば、これをベッドカバーやインテリアとして使う時には、おそらく黒地よりも色物の方が良く栄えるのではないかと思います。あと、大きさも通常のタハルートの半分サイズで、ショールとして使えるくらいの大きさです。

ただ、もちろん伝統的な黒地のタハルートも尊重したいので、黒と同時に他の色も今後作って行けたらいいなと思っています。

実は、このタハルートを自ら学び、まるごと1枚製作したことには、結果的に以下のようなメリットがあったと考えます。

● 伝統的なベルベル刺繍を外国人が学ぼうとする 
→ ベルベル人自身も自分たちの伝統手工芸の良さを再確認できる
● 手工芸品を開発する立場上、一応自分も手工芸が出来ることを見てもらう
→ まわりの人(特に一緒に手工芸品開発をしている女性たち)からの信頼度が上がる
● 「学ぼうとしている」という姿勢を見せる
→ 一方的にトップダウンで女性たちに「これを作れ、あれを作れ」というのではなくて、謙虚に学ばせてもらっている、一緒に作っているという姿勢を見せることによって、女性たちの自信にもつなげる
● 女性たちに作り方を教えてもらう 
→ 女性たちと交流する時間が増えて、友好関係や信頼関係ができる
● 黒とは異なる色のタハルートを作ってみる 
→ 黒地以外のタハルートの魅力を実際に自分の目で見てもらい、女性たちに「今後作ってみたい」と思ってもらう
● ボランティア自身がタハルート作りを体験する
→ 制作者の立場からものごとを見ることができる。タハルート一枚にどれだけの作業が発生しているか理解することができる
● ボランティアが新しい手工芸手法を身につける 
→ 自らのスキルアップにつながり、今後商品開発を続けるにあたって、このスキルを活用することができる

実際に、出来上がったタハルートを見た現地の人たち(女性も男性も)は、まだまだ私の刺繍が荒かったりするにも関わらず、高く評価してくれました。「君はもうベルベル人だね」という人もいました(笑)。

今後も商品開発にあたっては、試行錯誤を繰り返しながら続けていく必要があります。特に、品質管理や会計管理に関してはまだまだ出来ていない部分がたくさんあります。そして、せっかく物を作っても売る場所がなくては元も子もないので、販路の拡大も必要です。

まずは今月末にラバトに行って、初めて隊員に向けた販売会を行う予定です。隊員たちに商品を見てもらい、反応を伺ってから、また改めて今後の商品開発や販路拡大の作戦を練っていかないといけないと思います。

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